空の兄弟〈後編〉
31/83ページ
それから十日あまりが経ち、検査の日以来顔を合わせていなかった宏如と再会した。
夕陽を背負っているせいか、宏如の身体が透きとおって見えて、儚さが増す。
「青山、僕に赤紙(召集令状)が来た。明日、南方の戦地に向かう」
鷹は唾を飲み込んだ。
──俺には来てない!
「青山は? まだ?」
宏如の問いに、鷹は恨めしげに頷いた。
宏如はしばらく黙り込んで、言った。
「僕は先に行くよ。日本の、勝利の為に」
「日本の勝利の為に…」
「日本の勝利の為に!」
宏如の言葉の勢いある重み、それなのに鷹には、彼の実体の軽薄感が拭いきれない。
「青山」
宏如はふと笑んで、言った。
「青山が後から続くのを、待っているよ」
それじゃあと、鷹の肩をひとつ叩いて、宏如は歩き出した。
「ヒロちゃん!」
鷹は、夕陽に吸われて霞む宏如に、腹に力を込めて叫んだ。
「万歳ーっ、万歳ーっ、万歳ーーっ!!」
宏如につきまとう何かを追っ払う為に。
その日の夜、鷹の食事の進み具合がえらく遅かった。
羨望と高揚感が交互に入り混じる。
隣で夕飯済ませて食休みをしていた悟、横目で鷹を眺めて、悪戯っぽく口を歪ませて、言った。
「た
※よければこちらもどうぞ
→紙に書き殴った時代・⑪
→【空の兄弟】(アメ版)中間雑談・5
…