空の兄弟〈後編〉

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 疎開の村から歩いて四十分程の所に、隣村の公民館があった。

 鷹と宏如の他に百名くらい、ほとんどが鷹と同じ位の歳の、まだあどけなさの残る少年達だった。

 受付で名前を告げた時に、いくつかのグループに振り分けられた。

 鷹と宏如は別々になり、それぞれ別の部屋へ連れていかされる時、二人は激励の目配せをした。



 検査は十五分にも満たなかった。

 やる事は様々にあったが、ひとつひとつにそんなに時間をかけてなかった。

 中でも鷹がよく覚えているのは、志願者達が一列に並んで、自分の尻の穴を両端におっぴろげる検査。

 監督者がひとりひとりのをまじまじと眺める、なんでも健康確認のひとつだという。

 部屋全体が異臭に包まれ、正直鷹は嘔吐しそうになった。



 検査が終わり、鷹と宏如は全速力でお気に入りの丘に駆けて戻った。

 二人とも甲(合格)をもらったのだ。

 二人は丘の中腹で大袈裟に倒れ込み、仰向けになってわははと秋の高空へ向かって歓喜の声を上げた。

「あははは! やった! やった!」

「あんな簡単な検査でいいのか!? あんなので俺たちの何が分かるっていうんだ!?」

「監督の兵隊、しかめ面して、うむ、お前は中々のものだって、ケツの穴眺めてさ!」

「なーっ! あーっははは!!」

 あんまり腹の底から笑ったので、二人は息苦しくなった。

 二人の少年の高揚した心は、高い高い秋の青空に吸われていった。





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