空の兄弟〈後編〉
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互いの襟元を掴んだまま二人は横に三、四回転して、悟が下に、易が上の体勢になった。
「あっ…おい、易、あそこ…」
「どうだ、まいっただか、謝る気になっただか」
有利な体勢の為下品に笑う易に悟は腹を立てて、易の頭を思いきりはたいた。
そして仰向けのまま自分の頭の向こうを指差した。
正気に戻った易は目を丸くした。
悟の指す方向に、ずっと遠くだが、愛しい黒猫が歩いているのが見えたからだ。
「カン太丸!!」
易は走り出した。仰向けの悟の腹を思いきり踏んで。
「──おんどれ、後で覚えとれよ」
しばらくもがいた後で、悟はようやくこの言葉を発することができた。
腹の痛みが和らいで悟が易を見つけて追いついた時、易はぼうっと突っ立っていた。
「易! さっきはよくも…」
怒鳴りかけの悟の方を振り向き、易はしいっと口に人差し指を当てた。
そしてその指で向こうを差した。
今度は悟が目を丸くした。
「近寄ったらカン太丸がまた怒るだ」
易の指のずっと先に、黒猫が腹をむきだしに横たわっていた。
その腹の傍らで、白やら黒やらの四つのかたまりがうごめいているのが見える。
「赤んぼ…産んどったんか。へえ、ほんまかいな」
黒猫がとうとう息子だか娘だかを産んだのだ。
…