空の兄弟〈後編〉

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 悟のその言葉は易を豹変させた。

 易は徳のありそうな顔をみるみる怒りのこもった紅に染め、悟に取っ組みかかった。

「なんてことを言うだかおめえは! どたまかち割るど!」

「おわ! やめんかい、かんにん、かんにん!」

 易の隠された馬鹿力に驚いて、背中を地に着かされた悟は思わず喚いた。

「なんだべそのかん…って? また知らない、変な悪口だべか!」

「あほ、ちゃうわい、ごめんなさいいうこっちゃ」

「なんだ…そうだべか」

 大魔人が大仏に戻った、と悟は思った。

 易の両腕から力が抜けて、悟は咳き込みながら易の魔の手から逃れた。

「空悟よぅ」

 大きく溜め息をついてから易は言った。

「なんやねん」

「カン太丸の所へ行くだよ。おめが縁起でもねえごと言うがら、おら不安で仕方ないだ。ここで待ってるよりずっといいべ」

「ほんなら、俺もついていくわ。ほんまにくたばっとったらシャレにならんもんなぁ」

 力なく橋から川岸に下りた易に続き、悟は橋の下の餌を持って歩いた。

 運よく見つけて、その時黒猫がおなかを空かしているようだったら、すぐにあげられるように。





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