空の兄弟〈後編〉
20/83ページ
悟のその言葉は易を豹変させた。
易は徳のありそうな顔をみるみる怒りのこもった紅に染め、悟に取っ組みかかった。
「なんてことを言うだかおめえは!
「おわ! やめんかい、かんにん、かんにん!」
易の隠された馬鹿力に驚いて、背中を地に着かされた悟は思わず喚いた。
「なんだべそのかん…って? また知らない、変な悪口だべか!」
「あほ、ちゃうわい、ごめんなさいいうこっちゃ」
「なんだ…そうだべか」
大魔人が大仏に戻った、と悟は思った。
易の両腕から力が抜けて、悟は咳き込みながら易の魔の手から逃れた。
「空悟よぅ」
大きく溜め息をついてから易は言った。
「なんやねん」
「カン太丸の所へ行くだよ。おめが縁起でもねえごと言うがら、おら不安で仕方ないだ。ここで待ってるよりずっといいべ」
「ほんなら、俺もついていくわ。ほんまにくたばっとったらシャレにならんもんなぁ」
力なく橋から川岸に下りた易に続き、悟は橋の下の餌を持って歩いた。
運よく見つけて、その時黒猫がおなかを空かしているようだったら、すぐにあげられるように。
…