空の兄弟〈後編〉
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「おい易、なんで朝顔出さんかったんや」
この日の昼の当番は易だった。
お昼といっても正午ではなく、お昼の三時のことだった。
「空悟ぉ、カン太丸が来ないだよ。おめ、知らねえだか?」
向こうから歩み寄ってくる悟に、易は細い目を更に細めて、困惑で顔をくしゃくしゃに歪めた。
「そんなもん、俺が聞きたいわい、ボケ」
口を悪くしつつ、悟は板橋の下を覗いた。
悟が今朝持ってきた餌がそのまま置いてあった。
「おら、ここんとこ出ずっぱりだったべ。んだから母ちゃんが怪しみ出してるだ」
易は今朝ここに来れなかった理由をそんな風に話した。
「ほんま、なんで来いへんのかなあ」
橋の縁に尻を置いて、悟は両脚を橋の下でぶらぶらさせた。
二人とも、林の入口を見つめていた。黒猫がひょっこり顔を出すかもしれない。
二人とも、自分の両耳にこの上ない程に神経を研ぎ澄ませていた。黒猫の美しい声を拾うかもしれない。
だがどちらも叶わなかった。
「どっかでくたばっとるんちゃうか」
…