空の兄弟〈後編〉

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 それから二週間くらいの間、彼らは黒く美しい牝猫の為に食べ物を運んだ。

 誰にも内緒だった。もし誰かに見られたら、たちまち母親たちの耳に入り、怒鳴られるに決まっている。

 彼らは常にびくびくしていなければならなかったが、黒猫に会えばそんなことはすぐに忘れてしまえた。

 これから母親になろうという(もしかしたら過去にすでに子を産んだかもしれぬが)彼女の美しい鳴き声は、いつだって四人の少年の心を和ませた。

 食べ物を持ってくる番でなくても、彼らは毎日黒猫と仲間と顔を合わせていた。

「いちいち来るなよ、目立つだろ!」

 いつしかこれが合い言葉となる。



 ところがある日、青い空にひつじ雲がよく見えるようになり始めた頃であるが、黒猫が餌を食べに来なかった。

 この日の朝の当番は悟だった。

 たまたま洪助と清作、この二人は学校に行く前にわざわざ顔を出すのだが、この時は来なかった。

 易すら小川の板橋に来なかったので、悟一人で黒猫が来るのを待っていた。

「おかしいなあ…」

 結局黒猫は姿を現さなかった。

 悟は黙って家を抜け出してきたので、そろそろ戻らないと鷹や伯母の幸代に何を言われるかわかったもんじゃない。

 多分この二人は神出鬼没な悟をあまり心配していないだろうけど、それでも悟は不安だった。

 悟は餌の入った器を板橋の下に置き、家へ向かって小走りしていった。





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