空の兄弟〈後編〉
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「ヤッちゃんの様子がどうもおかしいんだ」
9月に入り、残暑に誰もが耐えられない頃、7歳の清作が言った。
同い年の洪助は首をかしげて、なんだいそりゃ、と言いたそうな顔を清作に向けた。
「8月の終わりぐらいからさ。妙にそわそわしているんだ」
「おっと、空悟だ。よう、何やってんだ、お前?」
学校からの帰途で、彼らはふたつ年下の空の坊やを見つけた。
坊やはそこでうろうろしていて、大あくびをした。
「易がおらんねん」
二人が辿り着くと、悟は言った。
確かにここは易の家の近くだった。
「おばさんに聞いても、知らんやて。どこにおるのやろな」
ほらね、と清作は洪助に目配せした。
何故悟が易を訪ねようとしていたかを、洪助たちは知っていた。
易は悟よりひとつだけ年をとっていたけれど、洪助と清作のように朝、昼と学校へ行くにはまだ早かった。
だから夏休みが終わった今、悟が遊びに誘えるのは易しかいないのである。
「ふうん」
洪助はうなった。
清作の言う通り、易はどこか変だということを認めた。
「かばん、家に置いてくるから、そこで待ってな。そしたらヤッちゃん捜しにいこうぜ」
そう言うと、洪助と清作はじゃあ後で、と互いに右手を軽く上げ下げして、それぞれの自分の家へ走っていった。
悟は、二人がここに戻ってくるのを待ち焦がれた。
あいつらがここに戻ったら、俺らは探偵に変身して、怪しい易を突き止めるんや。
おかげで笑いがずっと止まらなかった。
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