空の兄弟〈後編〉

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「そおれ!」

 鷹とリアカーの親父が声を揃えてそう言うと、車輪がゆっくり転がり、難関を越えた。

 頼りなげな小川の板橋は、親父とリアカーと鷹の重みにじっと耐えた。

「ありがとうよ」

 小川をすっかり渡り終えると、親父が鷹の方を振り返ってそう言った。

 そして、彼のリアカーを引く後ろ姿を鷹は手を振りながら見送った。

 橋の下から悟と風結子が出てきて、

「なにやってんねん、お前」

「一体何だったんだろうね、さっきの飛行機…」

 と言った。

「あれは日本空軍だよ。
 ただ、飛んでいたから、機体の日の丸を見損ねただけなんだ。
 さあ帰ろう、遅くなると叔母ちゃんが心配する」

 人一倍耳の利く鷹は、さっき飛んできた飛行機の音が、日本の空軍機の音とは違うと思った。

 だから敵機だと思った。

 でもあの飛行機は攻撃をしなかった。

 てっきり撃ち殺されるかと思ったのに。

 いや、飛行機だから銃じゃなくて爆弾を降らすんだろうか…

「?」

 悟の手を取った時、鷹はまた音を聞いた。

「じゃあさよなら、またね」

 風結子が鷹と悟に手を振り、背を向けるかと思ったら、彼女はそうしなかった。

 彼女の目に映ったのだ。

 二人の少年の背後の空から、鷹の両耳が今捉えている音の正体──さっきの飛行機がまたこちらに向かって飛んでくるのが。

 鷹は振り返った。

「きっ」

 そして機体の真下に取り付けてある器具にぞっとし、叫んだ。

「機関銃だああ!!」





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