空の兄弟〈後編〉
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「行っちゃったみたい…空襲じゃなかったのかしら」
狭っ苦しい橋の下で、悟を自分の体に寄せながら風結子が言った。
鷹は橋の上に登り、空を見回した。
あの飛行機は飛んでいないし、他の飛行機が続いて飛んでくる様子もなかった。
村の皆が逃げ惑う事も当然無い。
「よう鷹坊主。何見上げているんだ、そんな所でよ?」
近所の、頭にタオルを巻いた背の低い中年男が、向こうからリアカーを引きながらのんびり声を掛けてきた。
「さっきの、見てなかったのかよ」
呆れたように鷹は言った。
「すごかったんだぜ、敵…いや飛行機がものすごく低く…さあ。本当に知らないのかよ、もう」
「おっと、またつっかかっちまった、やれやれ!」
鷹の話をまるで聞かず、突然起きた事故に男は気を取られていた。
車輪が板橋の付け根の段差を上がれずに動けなかった。
「ちょっと後ろから押してくれないか」
元通りののどかさに、鷹は先程自分が大声で叫んだことに羞恥心を抱いた。
もしかしたら本当は日本の空軍飛行機だったのかもしれないと思い直して、鷹はさっきの紛らわしい事件に対して舌打ちをした。
…