空の兄弟〈後編〉
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魚は結局一匹も釣れなかった。
悟が昼寝から目を覚ました頃にはもう、太陽は西の方へ大分傾いていた。
三人は帰途へと、小川の板橋まで出てきた。
「いい天気だったね」
「ん」
「もう少ししたら、また綺麗な夕日が見れるね」
「そうだな」
会話が互いに短いのはいつものこと、鷹も風結子も気にしていないが、もっと喋ったらええのにと、悟は二人の間に立ちながら頭の後ろに組手をした。
「それじゃ、また」
「うん。帽子、本当にありがとう」
鷹と風結子がさよならを交わして、互いの家へと歩き出す。
もっと一緒におったらええのに、悟はまた思いながらも、鷹を追い越して家へと歩き出した。
「……?」
悟は違和感を覚えて立ち止まった。
すぐ後ろを歩いているはずの鷹の気配がない。
振り返ると、板橋のすぐそばで鷹が見上げていた、空を。
あんまり長い間見ているから、その場から悟は怒鳴った。
「どないしたん、た
悟の声に風結子も振り返って、鷹の傍に戻ってきた。
悟と風結子、鷹と同じ様に空を見上げる。
何かあるんだろうか、でも、入道雲以外何もない。
空を覗いている。
そんな鷹を見ていると、見ているこっちの時間が止まりそう…
すると、雲と雲の間にきらりと光るものが見えた。
「あ、飛行機」
風結子が悲しそうにつぶやいた。
お国のため、とどこからか勇んで空を翔ける空軍の兵隊。
「ええなぁ、兵隊になれば空飛べるんかなぁ」
悟は風結子には聞こえない程度の大きさの声で言った。
しかし何故鷹は、あの飛行機を食い入るように見るのだろう? 海軍志望の鷹が。
…