空の兄弟〈前編〉
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太陽が半分山に隠れて夕闇が迫っていたので、鷹と風結子は丘を降り、帰途に着いた。
「なぁ、岡田、麦藁帽子作って欲しいってほんと?」
「ほんとうよ、どうして?」
「俺が作ったのなんかで、いいのかなって」
「うん」
風結子がちょっとずつ元通りになってきた。
鷹は立ち止まって学生帽を風結子に被せ、また自分の頭に乗せた。
「なんだ、俺とたいして変わらない頭の大きさか。
じゃあ今作りかけの俺の麦藁帽子をそのまま編んで、それをあんたにあげりゃいいんだな」
「えっだめよ、何週間かかったっていいよ、私のは後回しにして。
じゃないと、こっちが気分落ち着かない」
「っそ」
今の言葉で、風結子も意外と意固地なのがわかった。
「そろそろ、おばさんの頭冷えているかな。私も謝るわ」
風結子の家が見えてきた所で、風結子は鷹を振り返り、こう続けた。
「ごめんなさい」
「何が」
「聞いてくれてありがとう。
でも、あなたの夢のひとつがこんな話になってしまって、だからごめんなさい」
風結子が深く頭を下げて、また上げた時に申し訳なさそうな顔をした。
「岡田」
鷹は後頭部を掻いてから言った。
「戦争、なんで終わらないのかなんてわからないけど。
でもいつか、いつかは、終わる日が来るよ。
世界中の誰だって、終わってほしいって思っているはずなんだ。
だから…もう、そんな顔するな」
そう、風結子はまた涙を滲ませていた。鷹の言葉が嬉しかったのだ。
…