空の兄弟〈前編〉

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 その日の午後、空がもう夕焼けている頃に、ようやく決心がついた鷹。

 学校から帰ってきているはずである風結子を訪ねることにした。

 こういう展開になるとは、鷹自身思いもよらなかった。

 全て悟の仕組んだことだと思うと癪にさわる。

 でも、悟がいなかったら風結子と再会し、しかも会話につながるなんてことには、絶対にならなかっただろう。



 小川を越え、あの日風結子と話した場所に鷹は立ち止まった。

 私の家、あそこなの。

 風結子の言葉と、指した方向を思い出したが、風結子がどの家を指していたのか鷹には全くわからなかった。

「馬鹿みたい、なにも今日じゃなくたっていいんじゃないか…」

 鷹は頭を掻きむしり、悟のいいようにされている自分が情けなくなってきた。

 と、その時だ。夕暮れ時でさえかしましいセミの声をもものともしない、金切り声が耳をつんざいたのは。

「──どこまで寝呆けた娘なんだ、うちに非国民なんからないんだよ!」

 そして、ちょうど鷹が目を向けていた家から、押し出された形で女の子が出てきた。

 風結子だ。

 それに続いて、さっきの金切り声の主であろう、中年の小太りな女性が外に出てきた。風結子の母親だろうか。

 女性の罵倒に唇を噛み締めながらも睨みを返す風結子だが、「なんだいその生意気な目は!」片頬を引っぱたかれ、横へ倒れた。





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