空の兄弟〈前編〉

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「──うそだ! そんなこと、あるわけない!!」

 だが洪助は違った。

 悟の憶測に体を震わせた。

 わけのわからない、それでいてどうしようもない怒りによる震えだった。

 洪助の叫びに他の三人は同時に竦み上がり、洪助がはあはあと息を切らす姿に目を丸くした。

 洪助は一度息を飲み、こう続けた。

「こんなぬかるみが一体なんだって言うんだ。
 跳べる、絶対跳べるんだ。誰にだってだ。
 もし、もしもだ、お前の言う様にあいつがそう思って俺たちを痛めつけたんならなあ…
 どんな簡単なことでも危険だって騒ぐ臆病者にすぎないんだよ、あいつは!」

 座っていた木の根元から10mくらい離れた所まで走り、洪助は振り返った。

 跳ぶつもりらしい。

 悟ははっとして洪助の所へ駆け寄り、洪助の胸ぐらを突き上げて言った。

「跳べるわけないやんか、ボケ!!」

 しかし洪助はその悟の両手をうざったそうに退け、

「跳べる」

と、もの静かに言った。

 悟の中で怒りが渦巻く様に流れていくのを感じる。

「跳べへん!」

「跳べる」

「跳べへんて!!」

 こんな言い合いをしている内、洪助の目にはこの坊やと鷹とが重なって見えた。

 同じことしかがなりたてない…苛立たしい。

 洪助は悟を横へ突き飛ばし、再度川の方へ体を向けた。そして、

「あいつの仕打ちがどんなに無駄だったかを、今から証明してやる!」

と、言い切らぬ内に走り出した。





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