空の兄弟〈前編〉

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「──ほんで、そのまま外へ連れていかれたんやな」

 幸代も知り得なかった、事件の一部始終がようやく明かされた。悟は腕組みをしながら難しい顔をした。

「そうさ。それで、林の外へ出た所でちょうど近所のおじさんに見つかって…大騒ぎになったってわけさ」

「おらたち、完全に治るまでひと月もかかっただ。ひどいもんだべ?」

 清作と易が悟の反応を見ようと悟の顔を覗き込んだ。

 すると悟は突如顔を勢いよく上げて、

「はっ、やっぱりお前らあほやなあ! あいつが怒るの、無理ないわ」

 大袈裟に溜め息をいた。

 この様子に三人は一斉に立ち上がり、悟を睨んだ。

 しかし悟はそれにひるまず、更に吐き捨てた。

「だってそうやろ、お前らみたいなガキが向こうまで跳べるわけないやんか」

「俺は跳べるぞ。これくらいの幅なら今まで越えたこと何度もあるんだ」

 洪助が溝を指差して言うと、清作と易は頷いた。

 悟は分かりやすく舌打ちをして、立ち上がって溝を覗き込みながら更に続けた。

「どこまでもわからん奴やなあ!
 ええか、ほんまにお前らが跳べるとしても、落っこったらただじゃ済まんのやで。いいや、お前ら絶対落ちて死ぬるわ!
 伯母さん言っとったぞ、その日…そう3月で、雨降ったおかげで雪が全部溶けて、でも地面はまだぐっちゃぐちゃやってんて。
 そんなんで走って跳んでみい、足滑らせて川底に落ちるに決まっとるわい。
 あいつのどこがひどい? あいつはお前らがそうならんように、殴ってでもお前らを止めたんちゃうの」

「あ…」

 清作と易はその言葉に体がすくんだ。

 何故だかわからないけれど、とにかく体がすくんだ。





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