空の兄弟〈前編〉
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雨はまだ止まなかった。
小川の側に置き去りにされた開いたままのボロ傘は、空から降ってくる雨達のほんの一部を静かに受け止め、そして弾かせていた。
その頃、ずぶ濡れの四人の少年たちは、小川に沿って奥へ奥へとまだ進んでいた。
小川の水面が次第に低くなっていく。
「ずいぶん溝が深いんやな」
洪助に引っ張られながら悟がつぶやいた。
「着いたぞ、チビ、ここだ」
洪助は悟の手をやっと放して、言った。
悟は辺りを見回した。
すぐ横に大きな木があって、その木の根が川の溝の中で半分くらいむき出しになっていた。
溝の幅はおよそ1m半と少し、大人が走り幅跳びをすれば簡単に越えられるだろうか。
今悟たちがいる地面から下の川の水面までの深さは3m以上ありそう、正直眺めていると頭がくらくらする。
「この林はさ、本当は小さい子供だけで入っちゃいけないんだと。
でも俺たちには鷹がいたから、あいつを保護者として連れて、ここに入ることが出来たんだ」
「いわゆる探険だべな」
清作と易が説明するのを悟はふうんと聞いていた。
「馬鹿、そんなことを言う為に俺たちはこんな所に来たんじゃないんだぞ」
洪助は言った。
洪助はしばらく深い溝の向こうを見つめ、やがて悟たちのほうを振り向いて、一人一人の顔を眺めた。
「でもそこから始めねえど、話にならないべ」
易が口ごたえをした。
洪助は易を睨んだが、すぐに目を伏せて、こくんとうなずいた。
四人は木の根元に腰をおろした。
その途端、悟は溜め息をついた。
「どうした」
洪助が訊いた。
「なんでもあらへん。早う話しいや」
悟は、鷹がこの三人に手を出した理由が何であるか、その答えをすでに自分の頭に浮かべていた。
あとは話を聞き、自分のその答えが当たっているかを確かめるのみである。
話は、三人の中で一番喋りの上手い清作によって進められた。
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