空の兄弟〈前編〉
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「ふ、普通さあ、自分の宝なんて外に持ち出さないよなあ? なあ?」
「うんだ、おらなら家に大事にしまっとくべよ」
二人はこの事件を悟の自己管理のなさで片付けようとしたが、
「やめろよ、そんな風に言うのは」
洪助は、膝を地につけたまま小川を呆然と眺める悟を見ながらそう言った。
洪助は立ちあがり、悟を立たせようとして悟の片腕を持ち上げた。
しかし悟は洪助の手を振り払い、立とうとしない。
悟は泣かなかった。
いや、声をあげて泣くことをしなかっただけだった。
自分の意志と関係なく涙が流れる。
手の甲や指で何度拭っても涙が雨粒と一緒に地に落ちた。
長い間目を大きく開いたまま涙を流したので、目の奥が痛くなった。
「おい、お前」
腕を組んで洪助は横にうつむいてから言った。
「悪かったな、お前の宝物が失くなったのは俺のせいだ。
俺がお前のシャツの中から取り出しさえしなけりゃあ…
俺は鷹とは違うから、謝るぞ」
この最後の言葉に悟は振り向き、洪助を見上げた。
「た
悟は訊いた。
「あいつはあの時謝りもしなかった。
お前があいつの身内だとしても、俺はあいつが俺にした様なことをお前にする気は全く無いんだ。
俺は鷹とは違う…」
洪助は悟と目を合わせてそう言うと、またふいっとそっぽを向いた。
…