空の兄弟〈前編〉

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(ごめんねえ、悟、お母ちゃんさえ丈夫やったらこんなことにならんかったのに。
 いつまでもお前一人を守ってやれるのに)

 母は手を伸ばして、ベッドの隣の机の引き出しから指輪を取り出した。

(いつか話したよね悟。
 この指輪、幸代伯母さんと小っちゃい頃取り合いしたガラス玉のおもちゃやねんて。
 最初お姉ちゃんのものやったけれど、結局はお母ちゃんにくれはったのよ。優しいねえ。
 悟にこれあげるわ。悟青いの好きやもんね。
 いつまでも大切に…たまにはお姉ちゃん、伯母さんにも見せてやって。
 失くさんように首に掛けられるようにしてあげましょうね…)

 髪をまとめていた皮製の紐をほどき、それを青い指輪のリングに通して大きな輪っかを作った。

(さあ、もうお行き。
 どうかいつまでも元気で…)

 悟を東京まで連れていってくれる知り合いの兵隊に、もう出発するようにと促した。

 兵隊の男は、悟の母に軽く会釈し、もうお別れだと言って悟の小さな手を引っ張り出した。

(お母ちゃん)

 悟は首を母の方へ回したまま、口をがくがく震わせながら言った。





(お母ちゃん!!)





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