空の兄弟〈前編〉

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 悟は真っ先に洪助に取っ掴み、倒れた洪助の腹に乗っかって、平手で洪助の頭を何度も殴った。

 洪助は片腕で悟をのけようとするが、悟の攻撃が激しくてそれすら出来ない。

 清作と易が悟の両腕を抱えて洪助から離そうとすれば、悟は足をばたばたさせて二人の脚に傷や泥をつけた。

 はあはあと息を荒らし、洪助たちを殴りつける最中、悟は他人に頭を触られるのを嫌がる理由を思い出していた。





(──悟!? どないしたん、その頭の傷!!)

 悟の頭の中で、生前の母が血相変えてすっ飛んできた。

 その母の前で、まだ坊主頭だった頃の、今よりも背の低い悟が佇む。

(お母ちゃん)

 悟が言った。

くうが死んだの、俺のせいやて。空が骨になって、煙になったんは俺のせいやて。
 俺もそう思うわ。だってそうやろ、あいつの粉ミルクめっちゃ甘いねん、いつも横取りしとったわ。あいつの唯一の食い物を…
 どうしてあんなことしたんやろ。食い物なんか他にいくらでもあるのに。
 どうして粉ミルクなんやろ。どうして…)

 皆まで言わさず母は悟を腕の中に強く抱いた。

 しかし悟は言葉を続ける。





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