空の兄弟〈前編〉
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ところが、洪助は悟の穏やかな顔とその言葉には引っ掛からなかった。
「ふざけるな!」
洪助は怒鳴り散らした。
「お前が俺にしたこと、とぼける気か。この前お前は俺を殴っただろう!
痛いのがまだ消えないんた、お前のせいなんだからな」
「そんなん、知るか。お前が先にどついたんやろ、俺はそれを返しただけやねん。
年上のくせにいつまでもうだうだ言いよって、あほか、お前らは」
悟の口調がだんだんこの前と同じ意地の悪いものになってきた。
「この野郎!!」
三人いっぺんに叫んだ。
「黙って聞いてれば生意気ばっかり言いやがって! 鷹も嫌だけど、お前はもっと気に入らない!」
清作が顔を紅潮させて言った。
「
易が東北訛りでそう怒鳴ったら、悟は不意に両手で自分の頭を抱えた。
それを見て三人は不思議に思った。
やがて、じろじろと悟の頭を眺めていた洪助がにやにやしながら、
「けっ、へーんな頭! なんだってこんなに汚い髪の毛を生やしてんのさ?」
悟の頭を両手で鷲掴みにして、悟の黒く豊かな髪を掻き回した。
「あーっ、おらにもやらせてけろ!」
面白がって清作と易も悟の髪をぐしゃぐしゃにしようとして手を伸ばす直前、
「…触るな、ボケぇ!!」
悟がついにきれた。
…