空の兄弟〈前編〉

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「あーあ、濡れてしもうた」

 まるで他人事の様に悟はつぶやく。

「なんか用か? たなら家におるぞ。奇襲するなら今がええんちゃうか」

 この前と態度がまるっきり違うので、洪助と清作と易は思わず顔を見合わせた。

 その間に悟が三人の横を通り過ぎようとしていたので、リーダー格の洪助ははっとして悟を突き飛ばした。

 今度は悟は背中を地につけ、シャツをすっかり濡らしてしまった。

「どうもあかん。雨の日はついとらんわ…」

 溜め息をついて悟はまたつぶやいた。

 そして、寝呆けた様な目で三人を眺めた。

 別に彼らに怒りを感じたわけじゃないのに、三人組はこの坊やが怒っていると勝手に判断し、この坊やのこの対応を不気味がった。

「なにぶつぶつ言ってやがる、何か企んでるのか」

 洪助が悟の顔を覗き込んで言った。

「鷹がそいつに何かふきこんでいるんじゃないの」

 洪助の後ろで清作が言った。

「俺はお前らがずっと前にあいつとケンカしたって知ってるぞ。
 けどな、俺には全然関係あらへんやん。
 石ぶつけられる理由あらへんぞ。
 俺、お前らを怒らすようなことしたか? しとらんやろ」

 すっとぼけた顔で悟が言った。

 清作と易は悟のこの言葉を聞いて、そういやそうかも、と納得しかけた。





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