空の兄弟〈前編〉

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「無理やろうなあ、やっぱり」

 小川の向こう側がどうなっているのか悟は気になったが、早く帰っておかないと鷹が迎えにきてしまうかもしれない。

 鷹の手によって自分の冒険を中断されることは、悟にとって不快なものとなるに違いないのだ。

 鷹といえば…悟は小川の向こう岸の他に、鷹について気になる事があるのを思い出した。

 自分と出会って元に戻ろうとしているた。ほんなら、元のあいつって一体どんなんやろ。

 うん、と曲げていた背中をのばして更にのびをすると、悟は不意にあくびが出て、家でもうひと眠りすることに決めた。

 その次の瞬間、悟の身体がぐらりとよろめいた。

 傘に何かが当たったらしく、ぐらつく傘の重みに耐えられずに、悟は尻もちをついてしまった。

「やった、大当たり!」

 悟の後ろの、やたら遠い所から声が聞こえた。

 悟の横で石器時代の石包丁みたいな石が転がっていた。

「清作、こんな所からよく届いたなぁ」

「へへ、やい、鷹んとこのチビ、驚いたか」

 尻が濡れて冷たいと思いながら悟が後ろを向くと、例の三人組が傘も差さないでこちらに歩み寄ってきた。

 彼らが悟の目の前で立ち止まった時、悟は開いた傘を地においたままゆっくり立ち上がり、三人組をじろじろと眺めた。

 自分に危害を加えたこの三人は、今の自分にとってはさっき追っていた雨水の川と同じ。雨の日の冒険の一部でしかないやろ。

 つまり、この三人がどんなに鷹を嫌おうが、今の悟にはどうでもよかったのである。





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