空の兄弟〈後編〉
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8月の後半、風結子が鷹たちの家へ向かう道の途中で、
「カクカクたるダイセンカ!!」
外で元気に遊ぶ子供たちがそう叫んでいた。
日本軍兵がはなばなしく活躍し、戦いの勝利は間違いなし、という意味だ。日本のラジオや新聞の中でよく飛び交う言葉だった。
この、カクカクたるダイセンカという言葉を口にする子供の、なんと輝いた顔。
風結子は悲しそうに、首を軽く横に振った。
赫々たる大戦果。
愚かにもこの少年たちは、そして彼女ですら、この言葉の真実を知らない。
戦果を過大に、損害を過小にねじ曲げて発表するのが常などと、この時代の誰が知っていようか。
ところで、何故風結子が鷹たちの所へ行こうとしているかというと、鷹お手製の麦藁帽子がもうすぐ完成しそうだ、と悟が昨日伝えに来たからである。
ところが、鷹はこのことを知らなかった。
真夏の昼の陽射しを嫌い、鷹は家には居ず、小川の板橋近くの林の陰にいた。
そこは日除けに丁度良く、おあつらえむきに横へひん曲がった大木の幹に腰を据え、小川のせせらぎに両足を浸していた。
そして、二つの麦藁帽子を夢中で編んでいたのだ。
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