空の兄弟〈前編〉

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 ざんざんと雨が傘を打ちつける中、悟は自分なりの冒険を再開させた。

 これまで畑仕事に出掛ける鷹の後をついていき、鷹の仕事が終わるまでに畑あるいはその周りの地をゆっくり歩き、色んなものを目にしてきていた。

 最初は、地を這う一匹のアリを注意深く見ていただけ。

 でも、そいつがあまりにも色んな所へ駆けずりまわる。

 だから、雑草の中で埋もれた美しく小さな花とか、朽ちた葉っぱとか虫の死骸とか、そういう小さなものが次々と悟の視野に入った。

 それらを年中眺めていてもよかった、なんてことにはならなかった。

 今、悟はまさに新しいものを見つけに新しい地へ発ったのだ──大袈裟に言えば。



 畑と畑の間の細い道を通り抜けると、真正面に広そうな林があり、左と右へ往く道に分かれていた。

 左は確か自分が故郷から来た道だったと思い出し、悟は右へ曲がり、林に沿って歩いていく。



 悟は老婆の様に背中を曲げて、地を注意深く眺めながらゆっくり歩いた。地を流れる雨水を追っていた。

 この細く小さな川の果てを、悟はどうしても見たかった。

 やがて、ゴーッという音が聞こえて、悟は立ち止まった。

 その音は雨水の小さい川の果てから聞こえていた。

 雨水は悟を置いて先へと流れ急ぎ、果てへ消えた。

 悟が顔を上げると、目の前より少し先に小川が横切っているのを見た。

 その小川は狂っていた。雨のせいで水かさが増え、こんなにいっぱい水を持てるもんかと川自身が怒っている様に見えた。

 すぐそこに立派でない板の橋があったけれど、雨のせいで怒り狂う小川がそれをすっかり隠してしまっていた。

 悟の追っていた雨水の川は、この恐ろしい小川の一部となってしまったのである。





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