空の兄弟〈前編〉

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「誰だい、この人たち」

「さあ、私も知らない」

 幸代が首をかしげていると、

「近所の奴らやねん。なんで写っとるんか、腹立つわ」

 悟はめちゃくちゃ不機嫌そうな声でそう言ってから、

「返せ、た、俺は風呂に入る」

 鷹の手の中の写真をひったくった。

「家族の写真か。いいよな、俺にも一枚くらいあればいいのに」

 珍しく穏やかな顔で鷹が言うので、悟はさっきまでの眉間にしわ寄せた顔つきはどこへやら、きょとんとして

「へえ、お前でもそないな事言うんやな」

 と言った。

「なんだよ、それ」

「そうやろ。だってお前、誰にも頼らんで生きてきたみたいな態度やんけ、いっつも」

 皮肉っぽく悟は言ったが、鷹は即答せず、ずいぶん間をおいてから

「そりゃお前のことだろう」

とだけ言って、ふいっと横を向いた。

「た、麦藁帽子はまだでけへんのか。
 梅雨が開けても出来上がっとらんかったらしばくぞ、こら」

 そこら辺に置いてあった編みかけの麦藁帽子を指差して悟が半分脅しに言うと、鷹はべっと舌を出して言った。

「へん、そう簡単に完成できたら苦労ないわい」

 悟につられて語尾がつい大阪ことばめいたものになる鷹を見て、幸代はくすくすと笑った。

「なんだよ」

 鷹は幸代を睨んだ。

「鷹坊、もう一度訊くよ。
 ──子供嫌いはもう治ったのかしら?」

 笑いを含んでそう言うものだから、普段より余計に頭にきて、鷹は足元の枕をむんずと掴んで、そいつを幸代にぶん投げた。

「治ってねえよ、早く風呂入れよ…」

「おお、こわ。
 悟くん、鷹坊の機嫌がよくなるまでお風呂に入っていようね…」

 飛んできた枕を腕で払いのけた幸代は、悟の小さな手をとって、一緒に部屋を出た。





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