空の兄弟〈前編〉

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 鷹は初めて悟を黙らせた。

 この事は鷹にとって気分のよいものであったけど、別に子供相手に「嫌い」を強調することもなかったかな、そういう申し訳ないような気持ちも入り交じった。

「嫌いやない、嫌なだけやねん」

 しばらくして悟がつぶやく。何がどう違うんだ、口を挟みそうになったが、悟はこう続けた。

「悟って言えるんは、俺のお父ちゃんとお母ちゃんだけや」

 なるほど、自分を生んでくれた両親以外に呼び捨てにされたくないのか。

 鷹はそう解釈したが、その解釈を見透かしたかの様に悟は首を横に振った。

「わかってへんな。
 この世界で、俺を悟って呼ぶ奴はもうどこにもおらん。
 おってはあかんねん。
 悟は、お父ちゃんとお母ちゃんがいなくなったと同時に消えたのや。
 お父ちゃんとお母ちゃんが死んだこと、忘れとうないねん…」

 悟は、鷹はおろか幸代が思うより遥かに、幼児離れした考えを持っていた。

「それと…妹の空のこともな。あいつが死んだのは俺の…」

 辛そうに顔を歪めて言ったと思ったら、悟ははっとして言葉を止めた。





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