空の兄弟〈前編〉
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正午を少し過ぎた頃、家の縁側から幸代が出てきて、
「鷹坊、悟くん、おなか空いたろう。お昼にしたら?」
と、冷えたお茶とおにぎりを持ってきてくれた。
畑の側の切り倒された細木の幹に腰かけて、悟は真っ先にとりわけでかいおにぎりを取ってがつがつと食い始めた。
「あ、こいつめ、俺が目をつけてたのを食いやがった」
鷹はぺちっと悟の頭を軽くはたいた。
反撃されるかと思ったが、悟は下から鷹を睨んだだけで、何もしなかった。
「ほんと、お天気みたいな奴」
そう言って、鷹は盆からひとつおにぎりをつまんで、幸代から冷たいお茶を受け取ってから、悟の横に腰かけた。
悟が意気込んで食った為おにぎりを喉につまらせてむせてしまったが、それ以外は特に問題はなかった。
鷹と幸代がまだひとつ目を食べ終えない内に、悟はもうひとつを食べて、不意にあくびが出た。
右隣の幸代の膝を枕にして図々しくも寝っ転がる。
幸代は驚いたが、別に嫌という気もしなかったので、悟の肩を軽く叩いて脳を揺さぶり、眠りにつかせようとした。
「甘ったれんな」
不愉快そうに鷹が米つぶのついた指をしゃぶりながら言うと、
「ええやん、伯母さん俺のお母ちゃんに似てはるもん。ええ匂い…」
はっきりしない口調で目を閉じたまま悟は言った。
「そりゃそうさ、私の可愛い妹だからね、あんたの母さんの
幸代は悟の厚い髪をそっと撫でた。
それを聞いた悟、顔に笑みを浮かべて、でも何も言わなかった。
…