空の兄弟〈前編〉

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「売ろうたって無駄やねんぞ、それ、ビー玉の指輪やねんからな」

 なるほど、埋め込まれているのは宝石ではなくガラス玉だ。

「お前の一番の宝物か?」

 鷹が訊くと、悟は意外な行動をとった。首を横に振ったのだ。

 病みあがりの身体で勢いよく立ち上がった悟、

「ええか、俺には大事なもんがいっぱいあったんや。
 けどな、ここに来る前にいっぺんに失くしてしもうた…
 だから俺の今の大事なもんはな、こいつだけやねん」

 鷹の手の中の青い宝物をひったくって、よろめきながら部屋を出た。

 と思ったら、すぐまた部屋に入ってきて、続いて熱々の土鍋をのせたお盆を持って幸代が入ってきた。

「だめじゃないか悟くん、急に動いちゃ。
 さ、おかゆ作ったから食べておくれね」

「はぁい…」

 気まずそうにうつむく悟。

 鷹と目が合うと、口をへの字にさせて慌ててそっぽを向いた。

 その仕草に鷹はくっくっと笑いが止まらない。





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