空の兄弟〈前編〉
15/91ページ
「売ろうたって無駄やねんぞ、それ、ビー玉の指輪やねんからな」
なるほど、埋め込まれているのは宝石ではなくガラス玉だ。
「お前の一番の宝物か?」
鷹が訊くと、悟は意外な行動をとった。首を横に振ったのだ。
病みあがりの身体で勢いよく立ち上がった悟、
「ええか、俺には大事なもんがいっぱいあったんや。
けどな、ここに来る前にいっぺんに失くしてしもうた…
だから俺の今の大事なもんはな、こいつだけやねん」
鷹の手の中の青い宝物をひったくって、よろめきながら部屋を出た。
と思ったら、すぐまた部屋に入ってきて、続いて熱々の土鍋をのせたお盆を持って幸代が入ってきた。
「だめじゃないか悟くん、急に動いちゃ。
さ、おかゆ作ったから食べておくれね」
「はぁい…」
気まずそうにうつむく悟。
鷹と目が合うと、口をへの字にさせて慌ててそっぽを向いた。
その仕草に鷹はくっくっと笑いが止まらない。
…