空の兄弟〈前編〉
13/91ページ
悟は丸2日風邪で寝込んだ。
時々悪い夢でも見ているのかうなされていたが、熱は徐々に下がっていった。
「よかった、熱はひいたみたいだね」
叔母の幸代が眠っている悟の額に手を乗せて言った。
「俺への説教はないのか、叔母ちゃん?」
泥だらけだったのを幸代がきれいに洗濯した、悟の青ずきんに手を触れながら鷹は言った。
「そうしたいところだけどさ。
私はお前がこの子を背負ってくるなんて思わなかったよ。
だからお前がさっさと迎えに行かなかった事には、私は何も言わないよ。
どうせこの子からすでに怒られただろうし」
「ふん」
「おや? 言い返しはその一言だけかい? ひょっとして図星?
だとしても、お前がこの子に掴みかからないってのはやっぱり信じ難いねぇ。
…もしかして、子供嫌いが直ったのかしら?」
その言葉に鷹は素早く反応して、
「ちがうよ! 病人ぶん殴るわけにいかないだろ」
と怒鳴った。
幸代は慌てて鷹の口を塞いで、悟にちらりと目をやりながら小声で言った。
「わかった、わかったよ。
とにかく、悟くんが起きたらすぐに呼んでおくれね。
何も口にしちゃいないだろうから、栄養のあるものを作らなくちゃ」
幸代が静かにこの四畳半の部屋を出る直前、鷹は、
「叔母ちゃん、こいつの名前は空悟だとさ」
と言ったけど、聞こえなかったのか、幸代は足も止めないで部屋を出た。
…