空の兄弟〈前編〉

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 鷹は東京の生まれで、14年間東京の下町に住んでいた。

 1941年にこの国で戦争が始まってしまい、年を重ねる毎に敵軍からの被害が大きく膨れた。

 国は疎開──敵襲による損害を少なくする為の田舎への避難──の促進を図る。1944年2月のことであった。

 鷹は叔母の幸代を頼って、この東京郊外の山奥に疎開してきた。



 同じ様な理由で、鷹の他に幸代のところでお世話になる子供が今日来る。

 木谷きたにさとる、5歳。幸代の妹方の甥で、大阪の生まれ。

 活発で元気のいい子ということだが、鷹は子供が嫌いだった。

 だから悟と一緒に住むことになった事は、鷹にとって不愉快以外の何ものでもなかった。

 鷹も幸代の兄方の甥だから、鷹と悟は従兄弟同士なのだが。

「叔母ちゃん、俺が子供嫌いなの知ってるのに」

(鷹坊、悟くんに会ったら優しくするんだよ。お前ったら子供には本当に無愛想なんだから。)

 外へ出る前に幸代に言われた言葉である。

 そんなことできるわけがない、鷹は自信がなかった。というより、そんなことは鷹にはどうでもよかった。

「あーあ、やだなぁ…」

 ぶつぶつ文句を言いながら、悟が待っているはずの一本杉の下へと向かった。





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