風結子の時計
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風結子は居間に飾る大きな柱時計がお気に入りだったが、それを上回る時計に出逢い、好きになる。
「ふうちゃん、いいもん見せてやる」
そう言った榮太郎は20歳をとうに過ぎていて、お国の為にと軍兵になったばかりだった。
この時風結子ももう13歳で、昔のように榮太郎に無邪気に引っ付くのが気恥ずかしい年頃になった。
それでも変わらず接してくれる、会えばすぐに声を掛けてくれる榮太郎に、風結子は精一杯の笑顔をしてみせた。
「わあ、榮兄ちゃん、なあにこれ?」
「親父が徴兵祝いにって、わざわざ取り寄せてくれたんだ」
榮太郎が見せてくれたのは、当時は珍しい腕時計だった。
懐中時計よりも小さい、でもしっかりと時を刻む可愛い佇まいのそれを、風結子は恍惚と見つめた。
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