風結子の時計

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 風結子が生家にいた頃、近所に榮太郎という八つ年上の少年が住んでいた。

 風結子が物心ついた頃には既に、「榮兄ちゃん、榮兄ちゃん」と彼の回りをまとわりついていた。

 男ばかりに囲まれた環境に育ったガキ大将の榮太郎にとって新鮮で、この花のような女の子には滅法優しかった。

「榮兄ちゃん」
「ふうちゃん」

 まるで本当の兄妹のように過ごしてきた。

 風結子が特に強く残っている榮太郎との思い出は、榮太郎の父が営んでいる時計店の時計達を、榮太郎とふたりで眺めている事だった。

「すみませんねえ、この子ら、飽きずに時計を見るのが好きで」

 榮太郎の父が苦笑いをしながら客にそう言っていた事も、よく覚えている。





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