風結子の時計
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曇天の下を、荷台に十数名の女学生を載せたトラックが走行していく。
目的地は横浜。学徒動員の為、自分が生まれ育った町へ
軍需工場での強制労働、過酷な道が待っていると分かってはいたが、再び両親の元で暮らせる喜びの方が何よりも
疎開先での別れは…彼女の胸をチクリと刺した。
それを誤魔化すように、風結子は防空ずきんの内ポケットに仕舞い込んである物を、生地ごとぎゅっと握りしめる。
それは、風結子の手の中でカシャ、カシャ、と時を刻んだ。
風結子はそれを自分に託した人の名を、今はもうこの世にいない人の名を、心の中で祈るように呟いた。
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