ハジメの一歩

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 ほんの軽く触れたつもりだったのに、ちゅっと意外に音が響いた。

 やべぇ。暴走した。心臓が破裂しそう。

「ハ…ジメ…さん…?」

 ホノカの掠れ声。ホノカの揺れる瞳。反則だそれ。

 吸い込まれるように、二度目、三度目と、短いキスをしては離れる。

 離れる度、俺達の間の空間が狭くなって、四度目のキスをして離れた時にはもう、1cmと空いてなくて。

 五度目のキスは、長く唇を重ねた。

 掴み掴まれた俺達の指は、カウンターの上に置かれて、また握ったり握り返したり。

 そのリズムに合わせて、唇の角度を何度も変える。

 ちゅ…ちゅ…ちゅ…

 その途中でそっと目を開けて、ホノカを見た。

 まぶたを閉じて、恥ずかしそうに俺の唇に応えるホノカの顔に、カッと頬が燃えた。



「…ヤバ…カワイイ…

 …ホノ…ちゃん…



 ………ホノカ………」



「………ッ………」



 名前で呼ばれて、ホノカの指を握る力が強まった。

 どうしよう…止まんねぇ…



「…好…き…です…」



「んっ…俺…も…好…き」



 ホノカがくれた好きに、すっかり舞い上がった。離したくねぇ。

 カタッという音を確かに聞いたのに、俺達はかまわず唇を重ねた。

 ようやく…離れて息をついた時に、ホノカのバッグからメッセージの着信を知らせる音が鳴った。

「あ…北川」

 ホノカは送り主を確認すると、メッセージ画面を開いた。

 ホノカは隠さないので、俺もそのメッセージが見えた。





【オレのバイト先を愛の巣にするのはカンベンして!



 幸せにしてもらえよ。



 くそー、オレも彼女ほしーっ。



 忘れ物取りに戻ったんだけど、出直してきます】





 キタガワのメッセージに愕然とした。さっきの物音、キタガワだったの? つーか、全部見られてたの!?

 ホノカはそれを知って…カウンターに突っ伏して両手で顔を隠して、

「もぉ…イヤ…からかわれる…」

 と呻いた。

「アノヤロ」

 引き戸を勢いよく開けて遠くを見やると、キタガワの背中が小さく見えた。

 キタガワがクルッとこちらを振り返って、俺の姿を認めると…

 キシシ

 いつもの、小憎たらしい笑い方をして去っていった。



 店内に戻ると、ホノカが顔を覆う両手の奥から、俺を恨めしげに見つめていたので…

「ごめん」

 その手をそっと退かして、また唇を寄せた。





 夏の終わりに近づいた頃の、俺の大事な一歩。










ハジメの一歩〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2015年5月25日~6月20日

[改稿終了日]
2021年6月24日

[執筆BGM]
どこまでも遠くへ / Something ELse






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【ハジメの一歩】あとがき
【ハジメの一歩】おまけ





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