ハジメの一歩

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 夏らしい夏を過ごしたあの日から…3週間以上経って。

 なんでそんなに間が空いたのかというと、ホノカが1週間の剣道の合宿に入ってしまって、それが明けるとすぐにお盆に突入。ホノカがなかなかこちらに来れず…

 その間に、タツミくんの例の録音放送があって、俺は案の定店の切り盛りで聴いてられなかったが、タツミくんと、勇実と、仕事の手を休めて(オイ!)キタガワが、【きたいわ屋】でオンエアを聴いた。

「ハジメさん。これ。ハジメさんのと、ホノカちゃんのと。あ、キタガワくんにも焼いといたから。
 ホノカちゃんに、渡してあげて下さい」

 タツミくんから、そのラジオ放送のCDを頂いた。



 ホノカには、俺もまだちゃんと聴いてないから、時間が出来たら【きたいわ屋】で一緒に聴こうなと伝えてあった。



【ハジメさん? 遅くなってごめんなさい。今からなら行けます。伺ってもいいですか?】



 とある平日の、俺が昼休憩に入ろうとした時間に、ホノカからのメッセージ。

「了解…っと」

 ホノカに返信する。今日は用事があって早退するというキタガワが、帰り支度をしながらニヤニヤしだして、

「にーさぁん? ホノカ、来るんすか?
 あーあ、にーさんがホノカと連絡取り合うようになってから、俺にはめっきり減ったっすよ?」

 わざとらしい溜め息をついた。

「うるせぇ。さっさと上がれ」

「はいはーい。そんじゃ、お先に失礼しまっす。
 …おっ、ホノカ、いらっしゃい。じゃーな、ごゆっくり!」

 キタガワが引き戸を開けると、ちょうどホノカが入る所だった。

「え? 北川? 仕事は?」

「おーわーりー!」

 のれんの向こう側でホノカとキタガワが短い会話をして、ホノカが店の中に入ってきた。

「よぉ。ホノちゃん、なんか食う? ちょうど俺、まかない作るところだから」

「そうなんですか? じゃあ…味噌が食べたいです」

「味噌ね。了解。
 あ、のれん外しとくか。どうせもう来ないだろ」

「え、いいんですか(笑)」

「いいよ(笑) 録音ゆっくり聴きてぇもん」

 ガタンとのれんを下ろして、店の中に入れた。





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