ハジメの一歩

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 高架橋の所まで戻ってくると、倉庫から花火を観ていた人達の波が流れていて、また人混みに紛れる事になった。

 でも、俺とホノカはもう離れる事はない。ホノカの重みを、熱を、背中でしっかり受けているから。

「花火が終わったから、モールの中も混んでそうだなぁ」

「そうですね…
 あっ、モールに入ったら下ろして下さいよ? さすがに中までは…恥ずかしい…」

「ははは。わかった。じゃあそれまで、背中でおとなしくしてな?」

「…ハイ」

 ほんとは、高架橋からそのままモールの中へ行けたけど、俺はわざと下の横断歩道を渡って、外側から一番向こう側にある入口へゆっくり歩いていった。

「…ハジメさん? 遠回りしてないですか? …わざと?」

「うん? 靴屋、あっちの入口の方が近いから」

「ほんとに? …なら、いいですけど」

「あっ」

「えっ? なんですか?」

「キタガワ。ホノちゃんにメッセージ送ったって言ってた。既読にならないって。
 一応、連絡しとくか? 心配させるなって言ってたし。俺のスマホ使っていいよ。履歴の始めにアイツの番号入ってるから」

 俺のバッグの中からスマホを出させて、キタガワに掛けさせた。

『もしもし? にーさん? ホノカ、見つかりました??』

 コールしてすぐの第一声がこれだったので、ホノカはぷっと吹き出して、

「北川? 私だけど。
 心配かけてごめんね。スマホの電池切れちゃってて。ハジメさんの借りてる。
 メッセージ、家に帰るまで見れないけど。うん? そうなの? 分かった。後で返事してみる。

 …うん?
 …ウン…ハジメさんと見た…綺麗だったよ…

 …エ?
 あ…そう、なんだ…
 ウン…ウン…わかった…

 じゃあね、ありがとね、オヤスミ…」

 キタガワとひとしきり話して、ホノカは通話を切った。ありがとうございます、と俺のスマホをバッグに戻した。

「キタガワ、何だって?」

 何気なく問いかけたつもりだったけど、ホノカの返事はなかった。あれ、なんかまずいこと聞いたか?

 立ち止まって、背中のホノカを見た。

「…どうした?」

 俺の肩越しに、ホノカの顔がすぐそこにあって…

 瞳が、ゆらりと揺れていた。





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