ハジメの一歩

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 橋にゆっくり近づいていく。

 見つけたら駆け出そうと決めていたはずが、実際に姿を認めると安心して力が抜けてしまって、走る気力がごっそり無くなった。

 穴場だったはずの○○橋。もう、あの時とは違うのかな。カメラを構える人はもちろん、カップルも、友達連れも、それなりにいた。

 その中で、ひとり、橋の真ん中で夜空を彩る花火を見上げるホノカ。

 誰よりも…綺麗な立ち姿で、綺麗な横顔だった。

「ホノちゃん?」

 俺が声を掛けたと同時に、ホノカが振り向いて、顔をクシャッと崩した。

「ハジメさん!
 よかったぁ…逢えた。
 ごめんなさい。私、はぐれてしまって…」

「ごめん。ごめんな。
 ホノちゃんが後ろにいないの、俺、全然気付いてなくて…先に行っちゃって、本当ごめんな。
 キタガワにホノちゃんの番号聞いて掛けたけど、繋がらないし…
 どうしようかと思った…
 ホノちゃんが、ここを分かってくれていて本当、よかった…」

「え、電話、掛けてくれてたんですか?」

 俺の言葉に、ホノカはバッグからスマホを取り出した。

「あっ…ごめんなさい…電源、落ちちゃってました」

「あ、そうなのね(笑)」

 恥ずかしそうにスマホをしまうホノカの手に、片方のサンダル。

「ホノちゃん? それ、どうした?」

「あ…実は…ここ、切れちゃって。
 ハジメさんのバッグ離しちゃったのも、これのせいで」

 足の甲を渡る細い帯が、パックリと切れていた。

 そのままホノカの足下へ目線を落として、ぎょっとした。

 ホノカの右足が剥き出しで、少し赤く黒ずんで、痛々しかった。





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