ハジメの一歩
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え…この人、ホノカを見てる?
俯いて話していた俺が急に顔を上げたから、警備隊の彼はビックリしながらも、微笑んで続けた。
「【ここは、夜景と海が綺麗っていう橋ですか?】って聞かれたんです。
まあ、そうですね、有名スポットですよって答えたんですけど、彼女、顔を曇らせて。
【有名…ですか? …穴場って言ってたけど…あの、○○橋ってここで合ってますか?】って。
あぁ、○○橋は、もっと向こうだよ、遊園地のそばのモールを通って、サークル型の高架橋から、海と反対方向へ少し歩いた所だよって。
この説明で分かったといいんだけどな…あっ。ちょっと、君?」
彼の言葉を最後まで待たずに、俺は駆け出した。
俺がたった1回言っただけの橋の名前を、ホノカは覚えていてくれた?
○○橋で俺と落ち合えるのを、待っててくれてる?
彼の話の彼女がホノカじゃないかもしれない、なんて、微塵も思わなかった。
ホノカを迎えに行かなきゃ。そればかりが急いていた。
体の芯に響く破裂音と、夜空を照らすまばゆい光。時間なんて見てる暇はなかったが、打ち上げられる花火の量がだんだん多くなってきてるから、終盤に差し掛かっているのは何となく分かった。
おおお、と皆が溜め息混じりでそれに注目する中、はぁはぁと息を切らしながら…俺は思い出の橋へ向かって走った。
実は俺も、あんまり昔の事なので、○○橋の詳しい場所は把握していなかった。倉庫に着いた時にその辺の人に聞こうと思っていた。
でも、さっきの警備隊の彼がしてくれた説明で、両親と歩いた記憶が蘇った。もっとも当時は、サークルの高架橋なんて無かったけど。
彼の言う通り、高架橋から○○橋が見えて…
なんでかな…
こんな遠くなのに…
…すぐに見つけられた。
ホノカの姿を。
…