ハジメの一歩
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人の流れにそのまま乗っていくと、懐かしい所に出た。
昔汽車が走っていたという運河横の道、勇実と行った映画館、そして観覧車。
思い出が溢れて心が軋むかと思ったけど、そんなことはなかった。ちゃんと、過去に出来てんだ。
観覧車のイルミネーションが始まって、花火みたいに様々な色に変わっていく。
「わぁ…キレイ」
ホノカが目を見開いて観覧車を仰いだ。
「あそこも何気に花火スポットなんだよな。ほら、あんなに並んでる(笑)」
「あっ、ほんとだ…ふふ」
空から花火を見ようと、長蛇の列が遊園地の敷地から出るほどに出来ていた。
会場の公園と倉庫への分岐点で、人の流れが一層複雑になった。
俺達は倉庫の方へ行きたいのに、肩と肩がぶつかり合って、ぐるぐると回されているようだった。
【花火大会の会場は○○公園、こちらをまっすぐお進み下さい!
大変混み合っておりますので、押さないよう宜しくお願いします!】
誘導スタッフが拡声器で何度も繰り返す。
だから、
(あっ、ハジメさん、待っ…ちょっと待って…)
というホノカの声が聞こえなかったし、俺のバッグにホノカの重みが無くなっている事にも、全く気付かなかった。
カオスな分岐点を抜けて、倉庫へ人が流れる波に乗れた時に、俺はやっと後ろを振り向いた。
「ホノちゃん、ほら、倉庫見えてきた。
…ホノちゃん?」
後ろをずっとついてきたはずのホノカがいない。
俺のバッグを掴んでたはずの力強い手がない。
「ホノちゃん?
…ホノちゃん!?」
人の流れの速さに酔いそうになりながら、キョロキョロと辺りを見回す。ホノカを見つけられない。
「ホノちゃーーん!!」
ウソだろ。
サーッと血の気が引いた。
ヒュルル…ドーン。わあぁっ。
花火が始まり、周りがどよめく中、俺はホノカの名前を呼び続けた。
…