ハジメの一歩
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改札を抜けて、ようやく夕闇に包まれだした空の下に出てみると、人、人、人だらけ。
ハイシーズンなんだから当たり前なんだけど、予想や記憶に反するこの混み具合、絶句するしかない。
ホノカと二人、思わず立ち尽くしてしまった。
「わ…すごい…」
「だなぁ…」
花火の打ち上げ時間は19:00。あと30分ほど。
「ホノちゃん? ここら辺も、初めて?」
「あ…ハイ。恥ずかしながら…」
「俺も久しぶりに来たからな…迷子にならないよう気を付けないとな。
離れるなよ? また、掴んでていいよ」
「そうですか? じゃあ…」
キュッと、また俺のバッグを掴むホノカ。
「はは。じゃあ、まぁ、行きますか」
俺達はゆっくり歩き始めた。とりあえず、会場へ向かう人の流れに乗る。
海上から打ち上げられるから、そのすぐ近くの公園がメイン会場だ。勇実と映画を観に行ったあのモールより、もっと向こうにある。
「そういや、もう夕飯時なんだよなぁ。屋台とか、あるかな? あるか、ふつー…
でも、きっと会場に近い所まで出ないと、ダメだろうなぁ。
昔花火見たあの橋、逆方向だしなぁ。あ、倉庫の方なら、屋台出てるかな? そこからあの橋に向かって…
ちょっと遠回りだけど…いい? ホノちゃん」
ひとしきり喋ってホノカの方を振り向くと、ホノカは下をチラチラ見ていた。
「うん? どーした?」
「あっ、いえ、何でもないです…
おなかすきましたね。大丈夫ですよ、私、いっぱい歩くので。ハジメさんの思うように連れていって下さい」
「そう? ほんとにいっぱい歩くぞ? 疲れたらちゃんと言いなよ?」
「ふっ。ハイ。ハジメさん、やさしい」
「ばっ…行くよ」
ホノカの不意打ち、ずるい。
その笑顔も、ずるい。
…