ハジメの一歩
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花火大会の会場は、商店街の駅のもうひとつ先、昔勇実と映画を観に行った港の駅。
商店街の駅に停車した時、人の乗り降りで俺とホノカは離れてしまった。
ホノカはドア横の手すりに掴まって、俺はまだ真ん中に取り残されたまま。車内の人口密度が凄い事になって、身動きが取れなかった。
(ハジメさん)
ホノカが俺を振り返って口パクをする。
(次で降りるから、そこにいな)
俺の言わんとする事を読み取ったか、ホノカはこくりと頷いた。
電車が発車した。
たったひと駅なのに、すぐ傍にホノカがいないだけで、途方もなく長い時間に感じた。
窓の外を眺めるホノカの後ろ姿を見る。時折、何か珍しいものを見つけたのか、目線が一点に集中して横顔を覗かせる。
なんか、見惚れてしまった。綺麗なんだよな、立ち姿。横顔も。うなじとかも。
…ナニ考えてんだ、俺。
んーっと一瞬まぶたを閉じて、また開いた時に、違和感を感じた。
俺以外に、ホノカを捉えるひとつの視線。
ホノカのすぐ後ろに、40前後?くらいのスーツのおっさん。食い入るように…ホノカを見てる。
窓の外を見ているホノカはそれに気付かない。窓に映ってないの? と思ったが、巧みに映らないようにしてるらしかった。
…そういう目でホノカを見るな。
ホノカのうなじにおっさんの息がかかってる気がして、俺の中に何か黒いものが流れるのを感じた。
ふと、ホノカが俺の方を見た。おっさんはとっさにそっぽを向いた。
やっぱり。ホノカが何かされる前に、なんとかしなきゃ。
ホノカが俺の方を見てる限りは、あのおっさん手出し出来ないか?
(もうすぐ着くから。先に出て待ってて)
(はい)
(すぐだぞ? 脇にいてな)
(ふっ。はい)
ホノカは何で俺がこんな必死になってるのか、分かってないんだろうな。
電車は減速をし始めた。
…