ハジメのエピローグ

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「ええ…? お母さん? それ、いつの話です…?」

 自分の母親が出てくる流れとは思わなかったらしい、ホノカが素っ頓狂な声を出した。

 俺はその時の事を思い出しながら…ゆっくりホノカに話した。

「ホノの就職が決まって…就職祝いの事で話し合った時があって。
 その話の合間に、これからも帆乃夏の事宜しくお願いしますって、言われたんだ。
 それで俺、ポロッと言っちゃったの。
 ホノを貰いたいと思ってる、今すぐにでも動きたいって。

 そしたらな。
 ちょっと待ってって。
 ハジメくんの事はとても信頼してるけど、
 帆乃夏はまだ渡せないよって」

 ここで一度切る、ふぅと静かに息を吐く俺を、ホノカは不安げに見つめた。瞳が揺れる。

 そんな顔するな。

 目を細めながら…俺は話を続けた。

「お父さんが亡くなって4年…

 自分で言うのもなんだけど、帆乃夏は真っ直ぐに育ってくれた、自慢の娘です。

 あなた達が好き合って、お互いを思いやっているのは、私にもよく伝わってる。

 でも待って。

 せめてもう1年待って。

 あの子はまだ社会を肌で感じていない。

 そんな世間知らずのまま、ハジメくんの所へなんてやれない。

 あの子が社会人らしくなれた時に…

 その時にまた改めて、お願いしに来てくれると嬉しい…って。

 だから…

 ホノをかっさらいたい気持ちを、とりあえず隅に置いといて…

 今日まで待ってみました…



 …ホノ?」

 ホノカの、俺の指を握る手に力がこもった。

 ホノカに視線をやると…

 ホノカは俺と指を繋いだまま、

 片手の甲で両目を覆っていた。



「ホノ…



 話…続けていい…?」



 ホノカは鼻をすすりながら、小さく頷いた。





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