ハジメのエピローグ

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「誕生日、ハジメさんの」

 きょとんとしてホノカが答えるのを、クックッと肩を揺らしながら聞いた。

 フツー世間はそうは言わないから、ホノカの中では俺の誕生日ってのが大きくて、とか思ったらこそばゆくてたまらない。

「まあ、そうなんだけど。
 何月何日?」

「七月七日…あ、七夕?(笑)」

「そう(笑)

 俺さぁ、小さい頃から…
 あんたの誕生日は七夕だから、何でも願いが叶う日だから、
 多少辛いことがあってもその日は絶対大丈夫だから、
 安心して人生を生きなさいって…言われて育ってきたんだよな」

「ふっ…亡くなったお母さんが、言ってくれたの?」

 ホノカが目を細めて、顔を綻ばせた。

「そう…まぁ、大丈夫じゃない年もあったけどな(笑)
 でも…それ、結構俺の支えになってんの。



 …だからさぁ、
 今日、俺の誕生日じゃん?」

「ハイ(笑) そーですね(笑)」

 俺が話の合間に入れる笑いにつられて、ホノカも笑って身体が揺れる。

 繋がれた指先で握り合う、これも付き合った当初から変わんねぇ。

 これ、ホノカが何か無意識に考え事をしている時に出る仕草なんだけど、ホノカ今何考えてる?

 俺が何を考えてこんな事を言うのか、考えてる?(笑)

 ホノカの左の薬指の付け根を、親指でそっと撫でる…

 ホノカが少しくすぐったがって、そこに一瞬視線を落としてから、俺に顔を向けた。

 凛として、真っ直ぐな瞳。

 尊敬すら覚えるこの瞳に、いつだって真摯でありたい。



 言う前にちょっと吸った息が、緊張で苦しかった。





「ホノカぁ。





 俺の嫁さんになって下さい」





 一世一代の大決心を、俺はどんな顔で言ったんだろう。





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