ハジメのエピローグ

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「ン…ハ、ジメさん? 花、火…」

 唇を食む合間にホノカが可愛く呻く、ヌルッと唇同士がお互いの上を滑って、気持ちが昂る…

「ンー…? 後で…
 ホノの…思い出塗り替えるのが先…」

 そう言って俺は抱きしめていた両腕を解いて、掬うようにホノカの両頬を包んだ。

 顔を固定されたホノカは恥ずかしそうに俺を見つめて、俺のTシャツの両側を掴みながらそっと目を閉じた。

 いつもなら「見られる」とか「近くに人がいる」とか言って簡単に外でのキスをさせてくれないけど、俺の言った意図が伝わったみたい。

「この先また花火やっても、思い出すのはソイツじゃなくて俺でありますように…」

「塗り替えるもなにも…こんなにハジメさんでいっぱいなのに(笑)」

 ホノカは笑いながら、俺の深いキスを受け止めて、熱い舌を絡めた。

 ヤキモチ焼きのめんどくさい俺を簡単に受け入れてくれる、ホノカに甘えっぱなしでヤバいな、俺。



 どのくらい唇をくっつけたままだったろう、頭が痺れ、息も少し上がってきたところで、

「あ!」

 ホノカが短く叫んで、俺の胸を押し返した。

 甘い雰囲気から一瞬で現実に引き戻されて、迂闊にも突き放された寂しさを感じてしまった。

 でもホノカは俺のそんな様子に気付いていない、腕時計に視線を固めて、「…3、2、1」とカウントダウンしだした。





「お誕生日おめでとう! …間に合ったぁ、危なかったぁ」





 20時38分。

 29年前のこの時間に、俺は産声を上げた。

 ホノカが俺の親父にそれを聞き出すまで全然知らなかったんだけどな。

「…この距離になる必要あったか?」

 ホノカの腕の長さ分空いた、俺とホノカの空間に目を落として少し拗ね気味に言うと、

「だって、ちゃんと顔見て言いたかったから」

 あっ! という顔をしてから、気まずそうにシュンとしてホノカは言った。

 俺はクックッと笑って、

「うそうそ。ホノォ、ありがとなぁ」

 ホノカの腰に両腕を巻きつけて、一瞬だけ高く持ち上げた。

 ひゃっとホノカは驚きの声を上げたが、顔はくしゃくしゃに崩して笑っていた。





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