ハジメのエピローグ

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「ハジメさん」

「んー?」

「お休み…取ってくれてありがとう」

「俺こそ、こんなしてもらって…サンキュ」

「…ふっ」

 それぞれエアーマットにうつ伏せで乗って、ユラユラと水面に揺られながら俺達は微笑み合った。



 今回の一泊旅行は…思わぬ人からの提案で計画が進んだ。

 休みが合わない俺達、ホノカが社会に出てからは特に、二人でゆっくりなんて滅多にない。ましてや旅行に出るなんて事は至難の技だった。

「ハジメさん、ちゃんと答えないとは思うけど…今年の誕生日プレゼント、何がいいです?」

 毎回、ホノが選んだ物なら何でもいいなんて俺が言うので、ホノカがちょっぴり困った顔をしながら聞いてきたのがつい1週間ほど前。

「一泊行ってきたら?
 帆乃夏の誕生日祝いも兼ねて。
 帆乃夏、有給消化しないとって困ってたじゃない」

 そう横槍を入れてきたのは、ホノカのお母さん。

 この時、俺が休みの日でホノカが定時で仕事を上がれたので、ホノカの実家で夕飯をご馳走になっていたところだった。

「そんな簡単に言わないで」

 ひとつ間があってから、ホノカは溜め息をついた。

「私はいくらか調整きくけど…ハジメさんはお店離れられないんだよ?」

 一瞬俺を見て、またお母さんに視線を戻すホノカを、俺は考えながら見ていた。

 空になった食器を片付けにお母さんが台所へ立った時に、俺は言った。

「なぁ、ホノー」

「はい?」

「大丈夫だから」

「はい…え? はい?」

「誕生日と、次の日、店休むから。
 俺に旅行、プレゼントして」

 目を丸くして俺を見つめるホノカの後ろから、お母さんが若い男みたいに軽く口笛を吹いて、

「よかったね帆乃夏」

 と言って俺達に熱いお茶を出してくれた。





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