ハジメの一歩

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 ホノカの家の最寄り駅に行くには、商店街の駅を通り過ぎて、繁華駅でまた乗り換えをしなくてはならなかった。

 そこへ向かう電車に乗り込むと、帰宅ラッシュと被ったのかどんどん人が乗ってきて、あっという間に満員電車になった。

 俺はかろうじてつり革を掴めたけど、ホノカは車両のど真ん中の位置で、つり革にも手すりにも手が届かなかった。

 電車が動き出し、ホノカがバランスを崩す。

「ホノちゃん? 俺に掴まっていいよ」

 俺がそう言うとホノカは、一度俺の腰の辺りのシャツを引っ張ったけど、すぐに手を離して遠慮がちに俺のバッグを掴んだ。

「どこ掴んでいいか分からないですよ」

 ホノカは苦笑いをした。

「どこだっていいって(笑)」

 俺は笑ったけど…ホノカの行動に心臓をドクンと打ちつけられていた。

 ほんの一瞬シャツを引っ張られた時の、シャツから伝ったホノカの重みと熱。

 どうしてこんなに、動揺するんだろう。

 無意識に目を泳がせると、車内に浴衣姿の女の子がちらほら。

 ひと駅停まる度に、その率が増えていく。

「ハジメさん? どうしました?」

 俺がキョロキョロするもんだから、ホノカが不思議そうに聞いてきた。

「あ、いや。浴衣の子が多いなと思ってさ」

 俺の言葉に、ホノカもキョロキョロと辺りを見回す。

「あ…そうですね…何かあるんですかね?」

「…あ! そうだ。そういえば今日だったか」

 あるイベントの事を、俺は急に思い出して声を上げた。





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