ハジメの一歩

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 高校3年の秋が深まった頃…ホノカの父は交通事故に遭い、この世を去った。

 母と娘で手を取り合い、弔事のあれこれをこなした。

 仲のいい夫婦だった、母が時折我を忘れて泣き崩れるのを、ホノカは必死で支えた。

 自分は…泣けないでいた。母の前で、強い自分でいなくてはと思っていた。



 冬に入って、周りは受験でピリピリしている中、ホノカはすでに大学の推薦入学が決まっていたから、変わらず剣道の練習に明け暮れていた。

 ある日の帰り道で、ホノカは地面にへたり込んだ。

 本当にそれは突然で、武具をぶちまけて、体が全く動かなかった。

 心臓がドクドク言って、吐く息が震える。

 しばらくうずくまっていると、

【近藤? どうした?】

 目の前に影が差して、顔を上げるとキタガワが立っていた。

 私服で、平たいショルダーバッグを掛けていた。キタガワも受験生、塾に向かうところだったようだ。

 キタガワとは文化祭の実行委員の日々を一緒に過ごして以降、接点が無くなり、父の葬儀もあったから、まともに顔を合わせたのは久しぶりだった。

【北川…あ…いや…なんでも…】

【なんでもなくないだろ。ハラでも痛い?】

 ホノカの手を取り、体を起こそうとしたが、ビクともしない。キタガワの顔が強張った。事の重大さを物語った。

【北川? …いいから。アンタ、塾なんでしょ。行ってよ】

 そんなホノカの言葉を無視して、キタガワは散らばった武具を拾い集める。

【近藤ん家、近くだったよな?】

 すべてを首に掛けて、キタガワはホノカの前で背を向けてしゃがみ込んだ。

【おぶってってやるから】





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