ハジメの一歩

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「あ。ハジメさんが黄昏てる(笑)」

 勇実がパラソルへ戻ったのと入れ換えに、今度はタツミくんが俺の所にやって来た。

「あのなぁ…勇実とおんなじ事言ってるし。
 いーだろ? いつも店ん中だから、こんな風に海が目の前にあったらさ、そりゃ開放的にもなるさ」

「フフ、そーですね。
 ねぇハジメさん、あそこの岩場のとこまで泳ぎませんか?」

 遊泳区域のやや真ん中辺りに、小さな岩場がある。25mよりもう少しあるだろうか。

「おーいいぞ。じゃあ行くかぁ」

 俺とタツミくんはザブザブと海に浸かって、岩場に向かって泳ぎだした。

 波に煽られて流されそうになったりしたけど、なんとか辿り着いた。

「ぷはーっ。けっこう、体力使うのな。はぁっ…」

「あはは。そーですね」

 デスクワーク業のくせに、なんか余裕があるなタツミくん。密かに体鍛えてる?

「はぁー…ここは静かだなぁ…」

 岩場に上がり、俺は大の字で寝転がって、タツミくんはその横に腰かける。

 ビーチの喧騒から抜け出すと、波が岩場を打ちつける音と、ここからかすかに見える遊園地の、ゴーッというジェットコースターの音があるくらい。

「…なぁ、タツミくん。あのさぁ…」

「はい」

 突き抜ける青い空を見ながら、ふと気になった事をタツミくんに振ってみる。俺、とことん前の恋愛を忘れてない。

「俺がまだアイツと付き合ってた時…アイツと一緒に何かやるのやめてくれって、言った時あったじゃん?
 あの時…もう、好きだった…?」

 こんな事を聞いて、何になるんだろうな。ほら、タツミくんビックリしてる。

 タツミくんはしばらく、俺の顔を見つめて…

「…フフッ…
 …ハイ。好きでしたね」

 そう答えたタツミくんの顔は、すごく穏やかだった。

「まじかぁ…」

 いつからアイツを好きだったんだろ。それを聞くのは…やめておこう。

「ハジメさん」

 今度はタツミくんが問いかける。

「…うん?」

「言ってもいいですか」

「…ナニを?」

 ここまで、タツミくんの顔を見ずに聞いていたが、その先をなかなか言わないから、体を起こしてタツミくんを見た。



「俺ね。



 プロポーズしようって思ってます。



 イサミに」





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【ハジメの一歩】中間雑談・2





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