ハジメの一歩

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「おめでとうございます。鮮やかなひと振りでしたね」

 そう話し掛けてきたのは、司会の人ではなくて、タツミくんだった。

 マメカラのマイクを俺の口元に持ってきて、ニコニコしながら受け答えを促す。

「え、ちょ、ちょっとタンマ。ロケ行ってたんじゃなかったのかよ」

 後ずさりすると、横からトントンと勇実に叩かれて、フリップボードを見せられた。

『ロケの最後です。締めにご協力お願いします。』

 コノヤロ。引きつり笑いをしていると、司会者と話をしていたホノカがこちらに戻ってきた。

 タツミくんと勇実の姿を認めると、目を丸くした。

 勇実がホノカにもフリップボードを見せると、戸惑いながらもホノカはこくりと頷いた。

「あ、いや、真っ二つにしたのはこっちの彼女なんで」

「ちょっ、ハジメさんズルい。私だけに押し付けないで下さいっ」

 お互いにマイクを押し退け合う。

「あはは。仲がいいですね。そんなお二人にお聞きしますが、この夏に聴きたい歌といえば?」

 そんなタツミくんの質問と、勇実が新たにフリップボードに書いた『まずはハジメちゃんから!』という文字を見て、あーもう、逃げられねぇと観念した。不本意ながら、ラジオデビュー(笑)

「えーっと。そうだなぁ…高校の時によく聴いてた、□□の【△△】かな」

「おっ。懐かしいです。俺もよく聴いてました。
 では、そちらの彼女は?」

 続いて、ホノカにマイクが向けられる。いつも聴いているラジオのパーソナリティーに関われて、頬を赤く染めながらも嬉しそうに、ホノカは答えた。

「ちょっとしんみり系ですけど…○○の【▽▽】。私も高校時代に、よく聴いてました」

「へえぇ。意外な所から出たね。【▽▽】、俺も大好き。
 ところで、このスイカはどうされるんですか?」

「ハイ、今日一緒に来た仲間と食べちゃいたいと思います(笑)」

 勇実が新しくフリップボードに、『私達の事だよね?』と書いたのを見て、ホノカは笑顔で頷いた。

「美味しく頂いちゃって下さいね(笑) インタビューのご協力、ありがとうございました。
 さぁ、今日は沢山の夏歌と夏の思い出を皆さんから聞けて、すごく楽しかったです。
 集計して多かった曲と、僕のお気に入りの曲も何個かあったので、スタジオで紹介したいと思います。
 それではひとまず、海での収録はこれで終了です。ありがとうございました──」

 そう言って、タツミくんはマイクのスイッチを切った。

 勇実がいつの間にか、スイカを切り分けて皿に乗っけて、俺達に配った。

「収録お疲れ様!
 ホノちゃんも、すっごくカッコよかった。
 スイカありがとう。かんぱーい」

 スイカで乾杯かよ、と突っ込みながらも、俺達はゲラゲラ笑いながら勇実の言う通りに乾杯をして、甘いスイカをむさぼった。





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