ハジメの一歩

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「ホノちゃん! まずは前、ずっと前に来て」

 スイカから10mほど離れた場所からスタートするホノカに、俺は大声で呼びかけた。

 摺り足でゆっくり近づいてくるホノカ。少し斜めに向かってしまっていたので、

「ホノちゃん! 1回止まって…体を、すこーし左に、そう、そのまま前に来て…」

 ちょっとずつ調整をかけた。機械みたいに正確に、ホノカは俺の言う通りに近づいてきた。

 俺と真正面で対峙した時、空気がピンと張り詰めて、武者震いなのか、背筋がぞわっとした。

 さすが有段者、もしこれが本当の試合なら、俺、即行負けてる(苦笑)

「ホノちゃん…いいぞ、真っ正面だ。1回止まって…ちょっと待って…」

 言いながら、ホノカとスイカの横へ回った。帳尻合わせで、棒があの砕けた跡にドンピシャに当たるよう、前に進ませる。

「…止まれ!


 さぁ、行け!」

 俺の掛け声と共にホノカが大きく振りかぶって、「ふっ!!」という短い気合いと共に棒がスイカに振り下ろされた。

 うおぉっ、と周りがどよめいた。

 見事、一刀両断。

 スイカの真っ赤で美味そうな中身がやっとお披露目されて、司会の人も安心したようだった。

 拍手喝采の中、ホノカは目隠しを取って割れたスイカを確認すると、例のくしゃり笑顔を俺に向けた。

 ホノカの、凛としたかっこよさに惹かれた瞬間だった。

「すげぇよ、ホノちゃん。すげぇの、見ちゃったな」

 感動が止まらなくて、ホノカに同じ言葉ばかり繰り返して、俺、カッコ悪ぃ。

「ふっ。ハジメさんの誘導が良かったからです。私達で取ったんですよ、このスイカ」

 ホノカは笑って、俺の手に自分の手をパチンと重ねた。





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