ハジメの一歩

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 タツミくんと勇実はまた、ロケの旅に出ていった。

 ビーチを行き交う人達に沢山声を掛ける様子を、俺とホノカはパラソルの下から眺めていた。

「予定より早く終わりそうって言ってたな」

「そうですね。オンエア、楽しみだなぁ。でも、あの商店街でしか聴けないんですよね」

「ローカルだからな(笑) まぁ、うちでも流してるから、よければ昼メシがてら聴きに来な」

「そうですか? じゃあそうしようかな」

 俺達の間にはすっかりぎこちなさが無くなっていた。ゆっくりと時間が流れていく、ホノカとの空間がすごく居心地がいい。

「あ。ハジメさん、あそこ。何でしょうね?」

「うん?」

 ホノカの指差した方を見ると、何やら人だかりが出来ていた。

「なんだろな。行ってみるか?」

 自分達のと、置いていくわけにはいかないからタツミくんと勇実の荷物も抱えて、そちらに駆け寄った。

「スイカ割りですって。わぁ、大玉だなぁ」

 ホノカが感嘆の声を上げた。うお、まじででけぇ(笑) 俺がギリギリ両腕で抱えられるくらいの大きさ。

 この企画の司会者の話を聞いてると、見事真っ二つに割れた挑戦者に、あのスイカを贈呈するとの事。

 貰えたところで、持って帰るのはまず無理だし、ここで食べていくしかない。それもちょっと、迷惑な話という気がしないでもない。

「私、挑戦してもいいですかね?」

「えっ? やるの?」

 ホノカの突然の申し出にビックリする。剣道心に火が点いちゃった?

 こちらの若いお嬢さんが挑戦するそうです! と司会の人がホノカの手を取って観衆の前に連れていくと、周りがわっと湧いた。

 誘導人が必ず1人必要ってことで、隣にいた俺が駆り出された。

「ハジメさん、お願いします。当たれば割れると思うので…
 そしたら、イッサちゃんとタツミさんと、皆で食べましょうね」

 目隠しをされながら、ホノカが弾んだ声で言った。

 そっか、皆で食べたいのか。じゃあ俺もちゃんと、使命を果たさないとな。

「おー、任せとけ。寸分狂いなく誘導するからな」

 ホノカの荷物を受け取って、ホノカの空いている方の手に自分の手をパチンと重ねて、俺はスイカの所へ走っていった。

 もう何人も挑戦して、何回か当ててはいるらしかった。それでも割れず…でも頂上にわずかに砕けている所があった。

 ここに、ホノカのひと振りを導けばいい。





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